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連載エッセイ『カープ諸君!』(1)
2007.11.07
第1回 カープがある幸せ
久しぶりに広島駅に降り立った。
何年ぶりだろう。郷愁が脳裏をくすぐる。
東へ向かって歩を進める。
かつてあったスーパーがレンタルビデオ店に変わっている。パチンコ屋も消えている。
結構好きだった当時の猥雑な雰囲気の横丁が、形を変えつつある。きっとここの道路も拡張・整備されるのだろう。
駅から10分も歩くと、視界に入ってきた。
“新球場”
新しい玩具を目にする子どものような気分になってくる。
工事現場の入り口に立ち、見上げる。
バットの打球音と、大きな歓声が聴こえてくるような気がする。
真っ青な空にボールが吸い込まれていくように、懐かしい記憶が蘇ってくる。
まだ子どもだった、あの頃…
父親に連れられ、初めて広島市民球場に行き、その外観に見とれた。
しばらく見上げたまま、立ち尽くした。
「何しょうるんや!始まるで、早よぉ来いや」
父親に促されたのをハッキリと憶えている。
初めての野球観戦。初めての球場。初めてのカープ。
確かこの日は、0対0で迎えた12回表、それまで一人で投げ続けていた外木場が1点を取られ、負けた。
脳裏に、外木場の投球フォームがスローモーションでフラッシュバックする。
球場に抱いていたあの瑞々しい感覚が、新球場建設現場に立った今、鮮やかに蘇る。
工事用の重機が土を掘り返す音で、我に返る。
そう、ここでまたプロ野球が始まる。
プロ野球が球場で、見られるのだ。
そのことを改めて、ありがたく思う。
身近に足を運べる球場がある。
地元にプロ野球チームがある。
何て我々は恵まれているのだろうか。
最近は「勝利を」「クライマックスシリーズへ」「補強を」といったフレーズが多く聞かれるけど…
見られるだけで幸せじゃない?
そのことを皆、忘れてしまったのかもしれない。
もちろん、勝つにこしたことはないけれど。
FAで選手が出てしまおうが、
最下位になろうが、
必ず無名の選手が現れる。
そうやって広島東洋カープは存在し続けてきた。
決して皮肉ではないけれど、
人生、思うようにいかないこと、
敗北をいかに受け入れるかといったことを、
我々は子ども時代に学んだ。
風に漂う芝生の匂い。
カープうどんの香り。
フェンスの向こうで繰り広げられるベースボール。
そこにいる幸せ。
それを改めて思いたい。
新球場が完成する2009年も、そういう日々があることを願いつつ…。
秋風が舞い始めた夕暮れの新球場前にて。
ユタカ・ベルサイエス